ギャリソンテーパー理論

1.はじめに
 現在、私たちは過去の著名なロッドビルダー達が作り上げたテーパー値(対面幅の値 :Dimension)を用いて、それらの疑似ロッドを作成する事が出来ます。 そのテーパー値は、そのビルダー達が長い間試行錯誤を繰り返して完成させた、汗と涙の結晶であります。作ってはキャストし、釣り、また作り直し…。 それを幾度となく繰り返し作り上げたものでしょう。その変更過程は簡単なものではありません。
 例えば、試作ロッドのティップをもう少し強くしたい場合。単純にティップ部のみを太くすると、それにより増したティップ部の自重でアクションはモデルに比べて にスローになってしまいます。それを解消するには、バット部も太くしなければいけなくなりますが果たしてどの部分をどの程度太くすればいいのか。
 また、2ピースの完成したロッドを3ピースにしたい場合、そのままのテーパーで作製すればこれもフェルール重量及び位置の違いにより基準ロッドに比べ かなりスローなアクションになってしまいます。これを解消するにもテーパーの改造をしなければなりませんが、果たしてどの部分をどれだけ太くすればいいのか。 まったく見当がつきませんね。
 このように、テーパーの設計は非常に厄介なものなのです。なぜなら、ロッドはバットエンド(グリップ)を支点に動作するため、梃子の原理でティップに近い 重量ほど大きく影響するからです。つまり、ティップの先に重りを吊した際ロッドの全部分に同じ負荷(負担、Stress)がかかる様なロッドの太さは、平行な棒状では なくティップからバットに向かって太くなるテーパー状になるわけです。ですので、たとえ対面幅の数値をグラフにしてみても、ただの右上がりの(X軸の0をティップ 先端、Y軸を対面幅値とした場合)直線若しくは曲線になるだけで、それがどういうアクションのロッドなのか解りません。結局基準のロッドの右上がり曲線と比較し て改造なり解析をする作業となり、ひたすら試行錯誤を繰り返すことになるわけです。
 そこで、この作業を出来るだけ効率良くしようと、アメリカの名ロッドビルダー エバリット・ギャリソン(Everett Garrison)氏が考案した理論が、ギャリソンテーパー 理論です。この理論は、ロッドにかかる重量要素(ティップ、塗装膜及びスネーク・ストリッピングガイド、ガイド内ライン、フェルール、バンブー)を算出し取り除くこと により、純粋なロッドアクションとしての数値(Stress値)を引き出します。簡単に言うと、前述のティップの先に重りを吊した際(実際はキャストの際)ロッドの全部分 に同じ負荷(負担、Stress)がかかる様なロッドの右上がりのカーブ(対面幅カーブ:Dimension Curve)を、フラットなカーブに換算(Stress値を算出)するのです。 この換算したあとのカーブをストレスカーブ(Stress Curve)といいます。このストレスカーブを使用することにより、ロッドアクションそのものの解析、設計に専念でき るようになるのです。

2.モーメント(Moment)の算出
 このように、この理論ではまずロッドにかかる各重量要素を算出することから始まります。この重量要素のことを、モーメント(Moment)と呼びます。単位はoz.in .(ounce・inch)です。モーメントには、ティップ(Tip)モーメント、ガイド内ライン(Line)モーメント、バーニッシュ&ガイド(Varnish&Guides:塗装膜・スネーク及びストリッピ ングガイド)モーメント、フェルール(Ferule)モーメント、バンブー(Bamboo)モーメントがあります。またこれらモーメントの算出には、インパクト係数(Impact Factor)とい う係数が必要となります。それでは、これらについて概要を解説していきましょう。なお、詳細な計算方法については、Everett Garrison & Hoagy B. Carmichael著  A Master's Guide To Building A Bamboo Fly Rod を参照してください。
(1)インパクト係数(Impact Factor)
 実釣ライン長(Line to Fish:主にキャストする距離のティップから出ているラインの長さ))のライン重量とトップガイド重量を静止状態のロッドティップにかけた場合 のロッドティップの曲がりの深さと、同条件でキャスト状態でのロッドティップの曲がりの深さの比を言います。つまり、静止状態の曲がりの深さをDs、キャスト状態 の曲がりの深さをDcとすると、
    Dc=Ds × ImpactFactor
となります。ギャリソンは、ImpactFactor=4 が良いとしており、通常その値が使われています。
(2)ティップモーメント(Tip Moment)
 キャスティングの際のライン重量及びトップガイド重量によって生じるモーメントです。
 ティップモーメントの計算には、まずティップインパクト(Tip Impact)と呼ばれる係数を算出します。
ティップインパクト=(実釣ライン長のライン重量+トップガイド重量 [oz])× インパクト係数
です。このティップインパクトにティップからの長さを各ポイント毎に乗算し、それらを合計したものがティップモーメントです。すわなち
ティップモーメント=Σ(ティップインパクト × ティップからの長さ[inch])[oz.in.]
です。例えば、ティップインパクトを2.0、位置をティップから5inch刻みで計算すると
 5”      2.0×5
10”      2.0×10
         :
ActionLength  2.0×ActionLength [oz.in.]
となります。ここで出ましたアクション長(ActionLength)とは、有効に動作(アクション)する部分の長さでして、通常ティップからグリップ先 端までの長さ(ロッド全長-9inchとか)になります。
(3)ガイド内ラインモーメント(Line on Rod Moment)
 ガイド内(トップガイドからリールまで)のラインの重量により生じるモーメントです。
 ガイド内を通っているラインは均一の太さだとして単位長(1inch)あたりの重量をWu[oz]、ティップからの長さをL[inch]とすると
     LineOnRodMoment=Σ(Wu×L×L/2×ImpactFactor)
です。つまり、位置までのライン重量にその重心の距離とインパクト係数を乗算してるものです。例えば、Wu=0.001oz、Lを5inch刻みで計算すると
 5”      0.001× 5×2.5×4
10”      0.001×10× 5×4
           :
ActionLength  0.001×ActionLength×ActionLength/2×4 [oz.in.]
となります。
(4)バーニッシュ&ガイドモーメント(Varnish&Guides Moment)
 塗装膜、スネークガイド、ストリッピングガイドの重量により生じるモーメントです。
 このモーメントは全体的に小さく影響が少ないということで、ギャリソンの著書では数式ではなく代表的な値としてグラフや表でズバリ数値を指定してます。 値は著書を参照してください。
 TakeRodでは、この数値ではなくガイド内ラインモーメントと同じように、重量は全体に均等に分布してるとして計算で算出してます。つまり単位長(1inch) あたりの重量をバーニッシュ&ガイド係数(Varnish&Guide Factor:標準値0.001573[oz])として
     Varnish&GuideMoment=Σ(Varnish&GuideFactor×ティップからの長さ×重心位置×インパクト係数)
で算出してます。多少ギャリソン氏の値と誤差はありますが影響は少ないし、何より自由度が高いので採用してます。正確に算出するには、塗装膜モーメント とガイドモーメントに分離して、塗装膜の単位体積当たりの重量を使って塗装膜モーメントを、ガイド一つ一つの重量を使ってガイドモーメントを、計算すればい いんでしょうね。TakeRodに将来反映しようと思ってます。
(5)フェルールモーメント(Ferule Moment)
 フェルールの重量により生じるモーメントです。
 ここまでくれば、算出方法も察しがつきますね。
      FeruleMoment=Σ(フェルール重量[oz]×ティップからの長さ[inch]×インパクト係数)[oz.in.]
です。もちろん、ティップからフェルール位置までのモーメントは0ですね。3pcなり4pcロッドでも、それぞれのフェルールのモーメントを算出し合計すればOKです。
(6)バンブーモーメント(Bamboo Moment)
 標準ストレートテーパーの場合のバンブーの重量により生じるモーメントです。
 ストレートテーパーの対面幅値は、ギャリソンはティップは0.070[inch]、バットはロッド全長に対する値をグラフで指定しています。値は、著書を参照して下さい。 TakeRodもこのグラフを数式で取りこんで有り、ロッド全長(Rod Length)からバット対面幅値を計算出来るようにしてます。また、ティップ及びバット対面幅値を自由 に変更出来るようにしています。
 このストレートテーパーのモーメントを、バンブーの単位体積(1立方inch)あたりの重量(ギャリソンはトンキンの場合0.668oz/cubic inchとしています)を使って算出します。
      BambooMoment=Σ(セグメントあたりのバンブー重量[oz]×重心位置[inch]×インパクト係数)[oz.in.]
です。セグメントあたりの体積算出式及び重心算出式は著書を参照してください。
(7)総合モーメント(Total Moment)
 全てのモーメントの合計です。
前述の各モーメントを合計して求めます。これが求められれば、モーメントの算出は終了です。
      Total=Tip+LineOnRod+V&G+Ferule+Bamboo
(8)モーメントの意味
 このように、モーメントはティップからの距離×重量の形で求めます。バット(グリップ)からの距離ではないということに着目して下さい。 ロッドのある部分に重りを吊したときのグリップに掛かる力の大きさ・・・、ではないのです。モーメントは、ティップから離れるほど大きくなる、 つまりロッドの各部分にかかる負荷の大きさなのです。ということは、あとは総合モーメントとロッドの対面幅との関係式、が解ればテーパー値を算出することが出来るわけです。 但し、ただ単に総合モーメント値を対面幅値に変換するだけの計算式では、算出したテーパー値は純パラボリックアクション(各部分の負荷耐力が同一)のみにになるわけです。 そこで関係式は、このロッドアクション要素(各部分の負荷耐力)を考慮したものが必要となります。このロッドアクション要素をストレス(Stress)と言います。 単位はoz/sq.in.(ounce per square inch)です。

3.対面幅値(Dimension)の算出とストレスカーブ(Stress Curve)
(1)対面幅の算出
 それでは、対面幅値を算出してみましょう。ここで、総合モーメントをM、ストレスをF、対面幅をDとすると
      D=(M/(0.120×F))^(1/3)   ※ ^(1/3) は、立方根という意味です。
となります。特に難しいことはないですね。算出した各部分の総合モーメントと、その部分のストレス値を与えてやれば目的アクションのロッドのその部分の対面幅が 算出出来ます。ですが、この「目的のアクションのストレス値を与える」部分はそう簡単ではなく奥深い部分となってます。それがロッド作製の面白い部分の一つであり、 無数のロッドが作り出されている(この理論に則る云々は別にして)所以でもありますね。
(2)ストレスの意味
 前記式のから解るように対面幅値は、総合モーメントの立方根に比例、ストレス値の立方根に反比例するわけです。つまりストレス値とは、負荷に耐えうる力ではなく、 言葉の通り負荷を加えた場合のストレス(辛さ?)を数値にしたものです。数値が大きい部分は負荷に対してストレス(一般的な意味での)が大きい(辛い)ということなので 、細く弱くなります。ただし、勘違いしないように気を付けなければならないのは、あくまでストレス値には総合モーメントを算出する際に考慮したロッド構成要素(ガイドや バンブーなど)による重量負荷は含まれないということです。つまり、ストレス値が大きくてもロッドの位置が違えば(極端にいうとティップとバット)対面幅は大きく(太く) 算出されるわけです。このように、総合モーメントによって全ての構成要素の重量負荷は求めているため、ストレス値=ロッドアクション値、となるわけです。 したがって、ストレス値を用いれば、ロッドアクションを数値として指定又は解析出来るようになります。このロッドアクションの指定又は解析作業に役立ち、良く使われて いるのがストレスカーブ(Stress Curve)です。
(3)ストレスカーブ(Stress Curve)
 ストレスカーブとは、X軸をティップからの距離、Y軸をストレス値としたグラフのことです。このグラフ使用することによって、比較的容易にロッドアクションを設計、解析 出来るようになります。次に基本的なストレスカーブとロッドアクションとの関係を考えてみます。
・フラット
 同じストレスがかかる 故に 各部の曲がりが等しい 訳ですので、ロッド全体が均等に曲がり、負荷が変動しても曲がりの支点は変わらない(曲がりの深さで対応) パラボリックアクションとなります。
・右下がりストレート
 ティップ側のストレス>バット側のストレス 故に ティップ側の曲がり>バット側の曲がり となりますので、ロッドの負荷に応じて曲がりの支点がティップからバットに移行 (負荷の負担を、相応の強さの部分に移行して対応)するプログレッシブアクションとなります。
・急激な右下がり
 ティップ側のストレス>>バット側のストレス 故に ティップ側の曲がり>>バット側の曲がり となりますので、ティップ部分が主に曲がり、バット側はあまり曲がらない ティップアクションとなります。
・右上がり
 ティップ側のストレス<バット側のストレス となりますので、バット部分が主に曲がり、ティップ側はあまり曲がらないバットアクションとなります。 バットが先に曲がってしまうと、それよりティップ側は重りと長さ稼ぎになってしまうと思われますが。ウェットフライ用と銘打ってるロッドは、こういうカーブだったりします。
・凸凹や各種組合せ
 上記の理論的な各アクションからその部分部分、更に全体的にと考察する必要があります。なかなか解りにくいですが、既存のテーパー値は得てして凸凹だったりします。 ストレスの谷の部分が重りとなったり、山の部分がウィークポイント(曲がりやすい部分)だったりもするのでしょう。また、フェルール部分の強度を保つための凸凹だったりもします。 そのあたりは、多くのロッドのストレスカーブと実際にキャストして感じたロッドアクションとの対比を、数多く体験して会得していくほかないのでしょう。 私も、まだ良くわかりません(^^;)。
・絶対値の違い
 同じ形状のカーブでも、絶対値の違いで硬い、柔らかいの差が出てきますが、キャスティングレンジの遠近や好みの問題で、基本的なアクションは変わりません(当たり前ですね)。

4.まとめ
 ギャリソンテーパー理論は、あくまでロッド製作の為の道具一つです。よく勘違いされる(私も最初は勘違いしてました(^^;))のですが、何フィート何インチの何番ロッドと指定したら ギャリソンテーパーが出てくるような自動販売機的な物ではないのです。どんなロッドにするかは、製作者が決定しなければなりません。そしてこの優秀な道具は、その過程で行う、設計、解析等の 作業を非常に効率的にしてくれるのです。しかしどんな道具でもそうですが、如何に優秀なものでも使い方を理解し、使いこなさなくては無用の長物となってしまいます。 ですが、現状では私を含めまだまだ理解不十分、情報不足の感が否めません(特に日本では)。  この優秀な道具を考案し、さらには公表した偉大なギャリソンしに敬意を表しながら、ぜひみんなで研究、情報交換していきましょう。